2011年の信越本線、特雪。


2011.1/18


 先週末、3日続いた日本海側の大雪は峠を越し、昨日から雪は概ね小康状態になっている。上越地方の予報を見ると今週は毎日雪は降り続くものの、比較的穏やかな空模様のようだ。ということはアレがそろそろあるんでないの?

特殊な排雪をするアレが・・・

 特雪ですよ!もう信越本線のみになってしまったが、例年の運転パターンからすると1月中旬から月末までが初回出動になることが多い上に、またまとまった降雪があった数日後に出動するパターンが多く、今日の「そろそろ」は本当に現実味を帯びてきている。現に昨年の特雪初出動は1月20日であったし、さらに信越本線の場合、除雪区間の列車を運休にして日中排雪を行うのが常であり、これだけ条件が揃えばもう、あとは予告運休が出るのを待てば、ほぼ確実に特雪に出会うことが出来る。

「オレがJRならあさってくらいに特雪出すな・・・」

明日、あさっては仕事は休みである。今日は仕事の合間を縫って運行情報を逐一携帯で確認していた。

 ところで、私事であるが昨年の冬は大糸線キハ52の引退や485雷鳥撮影のため幾度となく上越地方に赴いた。排雪列車は特に注目していた訳ではないが、2月のある日、敦賀や今庄付近で一日中485の撮影を楽しんだ後、もう一日休みはあったが満足行く釣果だったので上越地方経由で帰ることにした。一般道を東進し直江津に到着したのは時刻が変わった頃だった。数日降り続いた雪も止み、空は一面の星空。ふと海沿いのコンビニで買ったコーヒーを飲みながら携帯で運行情報を確認すると、翌日の信越本線の運休の情報が更新されていた。沿線の雪壁は今年一番のピークに達しているものと思われ、おそらく明朝、排雪関係で何らかの動きがありそうだった。ではこの目で確認せねば、と直江津駅構内の運輸区に行ってみることにした。何年か前の豪雪の時、最後のDD53が出動する前日深夜、始業点検を行っていたという情報があったのを知っていたからだ。もしや翌日の作業に向けて念入りにDD14が点検を始めているかもしれない。そう思って住宅地のど真ん中にある運輸区の裏の敷地にクルマを停め、区内の様子を観察したが、クラからはDD14は出てきていないようで、耳をそばだてても何の音もせず静まり返っている。1時間ほど怪しく周辺を徘徊してみたが動きは全くなく、どうせ明日はハイモでの作業だろうと諦めて真夜中の信越本線沿いに横浜に帰った。 しかし特雪は翌日あったのだ。あそこまで行っておきながら、なんというニアミス。勘の無い自分を責め立てた。

 そしてあれから1年が過ぎた。

2011.1/19


 休みだというのに、いつもの習慣で早朝目が覚める。6時頃JRの運行情報を確認すると、信越本線には特に新着は無し。一方、只見線や飯山線では本日、除雪作業のため日中の列車を運休するという。3年前ならこれがDD14やDD16出動と捉えて間違いないのだが、当然2011年の今日はENRだ。グダグダと自宅でHPの管理やら、過去の写真を見たりしているうちに、ついに昼過ぎ、待ちに待った信越本線の情報が更新された。

信越本線 お知らせ 2011年01月19日 13時1分 配信
信越本線は、除雪作業のため、
明日(20日)10時30分頃〜15時00分頃まで、
新井〜妙高高原駅間の一部列車が運休となります。
新井〜直江津駅間及び妙高高原〜長野駅間は折り返し運転となります。


 よっしゃっ!予想通り。作業区間も例年と同じ行程のようだ。ただ気がかりなのは運休の時間。2008年2月に、私が撮影した信越本線の特雪の画像の撮影情報を見ると上り関山8:30頃、妙高高原到着10:00頃、折り返し妙高高原発10:40頃、関山通過11:15頃となっている。今回の予告運休は2008年の実績と照らし合わせると、長野方向に作業してきたDD14が、妙高高原に到着し折り返し出発する時間から旅客列車が運休することになり、15:00に至ってはとっくにDD14は直江津のアジトに戻っている時間になる。当時、特雪を撮影追っかけしていた時、旅客列車は動いていたような気もするので特雪運行=即運休というわけではなさそうだが、気になる・・・。3年前と作業時刻が違うのだろうか?翌年の冬は特雪は眼中なく、米坂線でキハを追っかけていたし、昨年2010年は3回信越本線の特雪が設定されたものの、前述のニアミスをかましただけで撮影できていないので、近年の特雪の時刻は知る由もない。
 まぁともかく明日の朝、直江津にいれば答えは出る。この文章を書いている現在時刻は17時。まだ余裕はかなりあるが、そろそろ出発するとしよう。

 今日は早めに夕方出発。八王子まで走り圏央道〜関越道と進む。特に急がなくともよかったので碓氷峠手前の松井田妙義ICで高速を降り一般道を走っていると、前日同行のお誘いをしていたK1トップ氏から連絡が入った。当初、仕事が終わってから最終新幹線で長野まで来てもらい、そこでピックアップの予定だったが、どうにももう間に合わないとのこと。朝イチの新幹線で向かうとの作戦変更のTELだったが、3年前と同じダイヤだと当然間に合わない。なので自家用車による単独終夜走行で長野まで来ていただくことになった。一方自分は碓氷峠を国道18号で越えて信州へ。途中しなの鉄道沿いに走り飯を喰ったり温泉に入ったりのんびりと目的地への距離を縮めて行き、更埴ICから再び高速に乗りK1トップ氏との待ち合わせの場所、新井ICに到着した。情報を確認し6時間ほど仮眠することができそうだ。外は粉雪が降るマイナス6度の夜。月と星も見えていて、明日への期待が高まる。特雪があればの話だが・・・。


2011.1/20

 6時ころ起床。すでにK1トップ氏は到着していて、挨拶もそこそこに彼の撮影機材一式をオレのクルマに移し替える。当然特雪撮影では追っかけ組みも複数いるので単独での行動より1台で行動した方が効率も良く安全だ。まずは本日の概要を簡単に打ち合わせしていざ出発。まずは作業を開始する新井手前の踏切でDD14を確認することにした。掲示板もこんな時に限ってアクセス規制が掛っており、ほとんど前夜からの書き込みが無い状態なので、自分たちの目で特雪の有無を見てから行動することにしたのだが、予想時刻になってもDD14は現れない。やはり普通列車運休の時刻である10時30分頃に新井から作業開始と見て一旦ここを後にすることにして沿線のテツを偵察して回ることになった。最初に訪れたのは新井〜二本木の国道と線路が接近しているパーキング。しかし誰もいない。もし特雪があれば祭り状態必至のこの場所は誰一人としていなかった。この時点で我々の中での特雪出動確立は50%くらいに落ちてしまった。ここで憶測だが定期列車運休時刻の10時30分に新井から作業開始すると仮定して、その送り込みをまずは観察することにし、北新井の駅にやって来た。車内でひたすらその時まで待つ。そういえば朝から舞う程度だった雪はいつしか本降りになり激しくなる一方でだ。粉雪、みぞれ、ボタ雪と形を変えては雪は激しく降り、もし特雪出動であればかなり厳しい戦いがこの時点で予想された。10時40分過ぎ。運休前の最後の列車である343Mが遅れて直江津方に出発していった。遅れている今の旅客列車が脇野田か高田で特雪と交換すればあと10分ちょっとでやって来るだろう。しかしそれから10分経ち20分経ち、とうとう11時を回ってしまった。すでに我々が移動している間に新井に送り込まれていているのか、それともまだ来ていないのか。とうとう決断を迫られる。ついにしびれを切らして妙高方面に偵察に行ってみることにした。市街をしばらく走り抜け、先ほど見ておいた国道のパーキングに近付くと・・・・!? スゲーギャラリー!!!20名ほどいたであろうか。今日特雪の運行があること、そしてまだここにやって来ていないことをそこで初めて確信した。平日休みの幸せな人、仮病でサボって来た人、ニート・・・かどうかは分からないが、すでにその撮影地での空き場所は無く、我々は移動を余儀なくされる。そしてしばらく進んだ田んぼの中の築堤でDD14の姿を待った。それから何分経ったであろうか、林の向こうから3年前に聞いた音と同じ「パタパタ・・・」というロータリー特有の排雪音が聞こえてきた。しかし轟々と降る雪に視界を遮られ、その姿は確認できない。ファインダーを覗き神経を集中させていると、ついに赤い機関車がゆっくりと視界に飛び込んできた。




今年もDD14 327+DD14 332のコンビ。日本に3両しかいない機関車が目の前に2両いる!
2011.1/20  信越本線  新井〜二本木  EOS5D 24-105mm


 すぐに撤収して次の撮影地に向かう。二本木を通過して線路に近付けそうな踏切をいくつか探し当てるが、どこもすでに人大杉。大の大人が必死で1本の列車を追い掛けて移動するわけだから、一緒に行動していたのでは到底、あぶれてしまう危険がある。であればいっそのこと、その集団からかなり先行して先に迎え撃つしかない。カーナビを駆使して、3年前に直前でウィングを閉じられてしまった、あの踏切に行くしかない。しばらく住宅地を走り、その踏切へ。先客は2人ほどだった。まず三脚で場所取りをし準備に取り掛かるが、降雪はさらに激しさを増してきた。カメラをジャケットの中に入れうつむきながらしばらく耐えていたが、あっという間に雪に降り積もられ、とてもではないがここでいつ来るかも分からない特雪を待つには限界があった。踏切が鳴ったら外に出て準備しようと暖かいクルマの中で過ごしていたが、前のポイントで撮影が終わって移動してきたクルマの集団が続々とやって来たので、仕方なく外に出て持ち場にて待機する。すると後続の集団は撮影場所が無いと見るや線路脇の雪壁に次々と登りだし、一瞬にしてひな壇ができてしまった。ちょっと近付き過ぎのような気がするが、この状況ならあそこしか場所は無いだろう。危険を察知してウィングを閉じられないことを祈るばかりだ。雪はと言えば向かい風に乗ってカメラ、ビデオ両方をあっという間に真っ白に染め上げてゆく。せめて雪でレンズを遮られないようシャッターチャンスまで手で覆って保護をする。そしてついに踏切が鳴りだした。




もぅ何がなんだか分からない白銀の世界。
2011.1/20  信越本線  二本木〜関山  EOS5D 100-400mm


 実は上の写真の左右ギリギリまで撮影者が10人以上いる。なるべく広く除雪しておきたい特雪は、ウィングを少しも狭めることは無く、撮影者の足元の雪壁を容赦なく削り取りながらやって来た。さすがにフルパワーで人に向かって投雪するのは気が引けたのか、排雪口を前方に回転させて踏切を通過。しかし掻寄羽を停めることは出来ないので、ちょうどアウトカーブにいたオレのいる集団に、直上から雪崩のような塊をドドドドと浴びせてきた。すでにずぶ濡れでかじかんでいた体にかき氷のシャワー。貴重な機関車であるDD14に雪をぶっかけられるのを快感と思ったのはオレも含めて他にもいただろう。そしてすぐにクルマに戻る。全身ビショビショ。カメラもまるで水没させたかのようだ。踏切の向こう側にいたK1トップ氏は何十分も屋外にいたので、さらに酷い有様。「ウヒィーッ!! カ、カメラ壊れちゃう」と少し嬉しそうだ。こんなことやってるオレ等って一体なんなんだ!? 「特雪撮影の醍醐味だね」と言いながら、すぐに追跡を開始した。ここからは山深くなり追跡して撮影出来るポイントが少なくなる。クルマを乗り捨てて近づけるポイントが少なくなるからだ。しかしこの先がまさに信越特雪の佳境区間。こういったところで長時間待機して一発勝負に出られる落ち着いたテツになるためには我々にはもう少し時間が必要だ。今回も無難に前回訪れたことのあるセメント工場の裏手の俯瞰場所にやって来た。







2011.1/20  信越本線  関山〜妙高高原  EOS5D 24-105mm


 完全に精も根も尽き果てた我々は、ここで終了。DD14を見送ることにした。まさかもう見ることのできないとばかり思っていた全国ここだけの特雪に出会えたことが幸せだった。でもコンディションは最悪。写真の出来を見ても何一つ満足なものは無かった。しかし天気概況、運休情報からの予測、深夜のスクランブル発進。そしてその予測が的中したことの喜び。これこそが特雪撮影の「醍醐味」であろう。今年の雪の降り方ならあと1回、いや2回。チャンスがあればまた挑戦してみたいと思う。